美術館とチャットボット
新型コロナウイルスによって、美術館は大きな打撃を受けている。 特別展もろくに開催することができず、外出を控えさせるための政府要請に応じる美術館が大半で、 入場者収入も、そこから派生するグッズやカフェテリアの利用料もほとんど見込むことができない。
この記事では、そういった逆境に立たされている美術館と、 デジタルトランスフォーメーション施策のひとつに挙がるチャットボットについて話していきたい。
美術館がチャットボットを導入した事例【1】
私の知る限り、美術館とチャットボットという組み合わせが登場したのは2017年4月である。
ベラルーシの美術館が所有するFacebookページのメッセンジャーに、チャットボットを導入したという記事だ。 ベラルーシ国立美術館、FBのチャットボットを活用したデジタルガイドサービスをローンチ
気になった作品の名前をボットに送信すると、その作品に関する様々な情報を送り返してくれるという仕組み
動画を見る限り、膨大な量のテキストが送り返されてくるので、 はたして来館者がそんな情報を見るかと言われれば微妙ではあるが、 作品という存在に配慮をする必要がある展示スペースにおいては、 テキストをつらつらと綴ることは難しく、最低限タイトルと作者と素材と制作年が記載された小さい紙しかないので、 追加の情報がもらえて、かつ作品への理解を深めることができる仕組みは、 美術館に来た、実際の作品を目にしたという体験に対して良いスパイスになるのではと思う。
美術館がチャットボットを導入した事例【2】
最初のニュースから1ヶ月後の2017年5月。 今度は、アルゼンチンのブエノスアイレス現代美術館がチャットボットを導入したというニュースが出た。
ブエノスアイレスの美術館が始めた、アート作品と会話できるチャットボット
サイトに埋め込まれた動画では、第一の事例よりはだいぶくだけたやりとりが、 チャットボットと展開されている様子を見ることができる。
おそらく第一の事例では、ガイド目線でのテキストがレスポンスされているようだが、 この事例では、作品に人格(ペルソナ)をもたせ、あたかもその作品自体と会話しているような体験を与えることに成功している。
また、チャットボットは自然言語処理にも対応している様子で、動画では来館者がフリー入力でチャットボットと会話をしていた。
通常企業が導入するようなチャットボットでは、いくつか表示されたボタンをクリックして会話を展開していくため、 フリー入力というの一種の煩わしさではあるものの、それをを与えることになっても、ユーザ体験を損なうことなく、 逆に印象に残る体験へと昇華させることができているのではないだろうか。
2021年12月現在、日本にチャットボットを導入している美術館はあるのか
上で取り上げた例は、ポピュラーなチャットボットの実装ではあるが、このような取り組みをほかの美術館が行ったというニュースはほとんどない。 Googleで「チャットボット 美術館」「AI 美術館」等で検索はしてみたものの、地方自治体のページはヒットすれど、Webサイトで導入していると思われる美術館はない。
コロナが収束すればWebページの重要性も下がり、絶対的な必要性は薄れていくかもしれないが、 単なる収蔵作品のカタログとなってしまっているようなWebサイトでは、 展示はできても教育普及はできないのではと危惧している。